KEK 素粒子原子核研究所 金茶会 ホームページ

updated 2011.January.25(by Komatsubara)

(drawn  by T. Haruyama)
目的
素粒子原子核研究所のコロキウムという位置づけのもと、 素粒子原子核物理学に限定されない幅広い話題を提供し、 様々なことを、形式張らずに自由に意見交換 ができる場を設けます。
素粒子原子核研究所の実験、理論研究者が 自身の研究分野を超えた交流を行う きっかけとなるようにします。
とりきめなど
・日時:月一回のペースで開催します。
・時間:17:00〜18:00 (16:30よりお茶を出します)。
・場所:4号館セミナーホール(原則)。
・主に日本語による講演を行う 。
・内容は、エッセンスをわかりやすく。
・インフォーマルディスカッションの時間を多く取る。
・ポスターを貼り出して宣伝に努める。
世話人(2010年度) 小松原(世話人代表)・磯・板倉・齋藤・徳宿・中村勇・長谷川
世話人(2009年度) 磯(世話人代表)・小松原・齋藤・徳宿・長谷川
No. 年月日 講演者 タイトル file 講 演 要 旨
              
第46回 2011.01.21(金)
(2010年度の最終回です)
黒田和明(東大宇宙線研) ついに認められた重力波計画 pdf 平成22年6月についにLCGT計画の予算の一部が認められた。 LCGT計画は、TAMA 計画、CLIO 計画と進めて来た日本の重力波研究者にとって、待ち望んた "大型研究プロジェクト"であり、計画策定から10年が経った今でも十分に国際競争力のある計画として 認知されている。これは、裏を返せば、いまだに解決を待つ新技術に溢れているということでもあり、 その挑戦的技術課題の数々に身震いがする思いである。今回、この計画を高エネルギー分野の人々に広く知って頂く ということであるが、ここでは、地上の重力波計画で観測される対象、そこで期待される成果などについておさらいをし、 重力波検出装置の技術的課題とそれをクリアする方策について詳述したい。 なお、時間が許せば、プロジェクトに関わる運営事項にも触れることができるかも知れない。
第45回 2010.12.10(金) 佐野雅己(東大物理) 非平衡系固有の成長ダイナミクスとゆらぎ、およびその普遍性    相転移点近傍で見られるスケーリング則とその普遍性の理解は、 20世紀の統計力学の中心課題であったが、非平衡系においてもスケール不変な現象 は数多く存在する。実際、非平衡系においては、様々の自己相似なパターン が現れるが、ここではその中でも普遍性を持つことが知られている、2つの 非平衡ダイナミクスを取り上げる。そのどちらも実は20~30年前から様々の 数値シミュレーションや理論的研究が行われてきたものの、対応する実験が これまで存在しなかった現象である。その一つは、非平衡相転移の ユニバーサリティークラスの一つである、 Directed Percolation (DP)であり、 他の一つは成長するランダムな界面の問題である。どちらも、単純な緩和 ダイナミクスではなく、持続的に発展し続ける一見ランダムな時空間構造に スケール普遍性が存在する。これら2つの非平衡系における実験が存在 しないという長年の問題が、実は液晶を用いた乱流ー乱流転移を観測する という、一つの実験系でわずかにパラメータと初期条件を変えることで、 両方とも実験可能であり、しかも平衡系の臨界現象と同じかそれ以上の精度で 臨界指数の実験検証ができることを解説する。また、後者のランダムに成長 する界面の問題では、通常のスケーリング指数の普遍性にとどまらず、ゆらぎ の確率分布そのものが、普遍的な分布に従うという新しい側面を提供する 結果となっていることを解説する。
第44回 2010.11.05(金) 田村元秀(国立天文台)  第2の地球を探す     生命を宿す惑星である地球や巨大ガス惑星である木星は、太陽系を代表する惑星 である。このような惑星は広い宇宙にどれくらいあるのだろう?我々は唯一無二の存在か、 それとも無数の生命のひとつに過ぎないのか? 1995年の発見をきっかけに、 太陽以外の恒星の周りに既に約500個もの惑星が見つかっている。これらは「系外惑星」と呼ばれ、 わずか15年で、現代天文学の最重要研究課題のひとつとなった。
 系外惑星は遠方にあるため直接に画像に写すことは非常に難しい。そこで、 惑星からの光を直接に捉えるのではない、「間接観測」が最初に成功した。 惑星の公転運動によって、わずかながら恒星自体が周期的にふらつく。 これを恒星光のドップラー効果を利用して測定するのが「ドップラー法」である。 いっぽう、惑星が恒星の前面を通り過ぎる時の明るさの変化を検出するのが 「トランジット法」である。
 しかし、間接法は惑星からの光を直接検出するわけではなく、また、内側の系外惑星を 検出しやすいというバイアスがある。いっぽう直接観測ではこの制約は無く、 惑星の温度・大気などさまざまな物理的情報を得られるため、究極の観測方法と考えられる。 最近の技術革新により、ついに2008年には太陽の2倍程度の恒星のまわりに、 2009年には太陽に似た恒星をめぐる惑星候補の直接撮像に成功した。
 現在、米のケプラー衛星は宇宙からの大気揺らぎの無いトランジット観測を実現し、 地球型惑星の観測に迫りつつある。また、すばる望遠鏡ではドップラー法を赤外線波長に 展開し、軽い恒星のまわりの地球型惑星を検出し、生命の議論にまで至ることが 計画されている。さらに、将来の地上30メートル望遠鏡によって、地球型惑星を最初に 直接観測し、そこに生命の兆候を探ることも可能になるだろう。
第43回 2010.10.08(金) 高部英明 (大阪大学レーザーエネルギー学研究センター) 超高強度レーザーを用いた核物理・素粒子物理研究の可能性 pdf 今年はレーザーが誕生して50周年。ルーブル美術館で開催された50年記念式典に招待され、 関連分野7人のノーベル賞学者の講演を聞いてきた。圧巻は1964年にレーザーの原理でノーベル物理学賞に輝いた C. Towns。95才でも張りのある講演に感動した。90年代に入り、この式典の運営委員長であるG. Mourouにより CPA法が発案され、レーザーの強度を1万倍近くに高めた超高強度レーザーが登場。 小さな研究室でも最先端の研究ができることになり、研究人口が増えた。 そんな頃、私は超高強度レーザーの大型装置(Joule数の大きい)を建設すれば、核物理の研究ができる、 電子陽電子プラズマを生成し高エネルギー宇宙物理の模擬実験ができる、等と考えていた。 さらには、素粒子の集団現象(例えばQGPのような)の研究ができないか、など考え J-PARCによる中性子方式の核変換でなくレーザーによる核変換の計算を行ったりした。 これに関しては2001年の物理学会シンポジウムを湯川哲之氏と実施した。 その後、超高強度レーザー生成の相対論的電子群による対生成と電子対プラズマの生成過程を研究し、 米国リバモア研の実験データの解析をした。パイ対生成も論文化したころ、 阪大で従来の3桁強度の高い「エクサ」レーザー建設を提案。 現在、そのレーザーを真空中に集光し作られる高強度電磁場で素粒子との相互作用がどうなるか検討を始めたところです。 聞いてくださる方で興味を持った人の知恵をお借りしたく、講演をさせていただきます。  
第42回 2010.09.15(水) 家正則(国立天文台)  すばる望遠鏡から30m望遠鏡TMTへ pdf 国立天文台がハワイ島マウナケア山頂に建設した口径8.2m すばる望遠鏡は2000年末の運用開始から11年目を迎える。この間、 戦略的探査観測で2006年には人類が見た最も遠い129億光年かなた の銀河を発見し、初代の恒星や銀河により宇宙の再電離が起きた時代 の具体的解明にとりかかっている。また、2009年には太陽系外惑星の 直接撮影にも成功した。望遠鏡自体も大気のゆらぎをリアルタイム補正 するレーザーガイド補償光学装置の開発により、視力が10倍に改善された。 ミリ波サブミリ波干渉計ALMAの完成とハッブル宇宙望遠鏡の 後継機JWSTの打ち上げを控え、これらの成果をもとに、日米加の天文 学界は中国やインドとも協力して口径30mの次世代超大型望遠鏡を マウナケア山頂に建設するTMT計画の実現を目指している。
高エネルギー物理学と天文学の接点がさまざまな面で拡がる中、画像と ビデオを軸にした講演で、天文学の最前線の一端をわかりやすく紹介さ せていただく。   
第41回 2010.07.09(金) 蔵本由紀(京大数理解析研究所) 非線形科学と縮約理論    非線形科学を数理科学として大きく進展させる原動力の一つに縮約理論がある。縮約理論とは、 考察する物理状況に応じて非線形発展方程式を簡略化する技法である。縮約には基本的に2つ の意義がある。第一は、これによって解析的に扱いがたい非線形発展方程式が扱いやすくなる という点である。第二は、不安定点の近傍のように物理的に特別な状況に着目することで、 見かけ上異なった系が広く共有する普遍性を明らかにできるという点である。
この講演では、講演者がこれまでに関わってきたリズム・同期現象に関連する縮約理論について まず述べる。そこでは中心多様体縮約法と位相縮約法とよばれる2つの代表的な方法が知られており、 それらの基本的な考え方と有効性を示す。また、個別振動子レベルから集団や場のレベルへの 縮約法についても論じたい。
上記の2大縮約法の基本的アイディアは、リズム・同期現象だけでなく動的な非線形現象一般 にも適用される。それは、これらの縮約法が「臨界モード」および連続対称性の自発的破れに伴う 「一般的化された位相モード」という普遍的な2大中立安定モードの存在に根拠をもつためで ある。このことに関して最後にコメントしたい。   
第40回 2010.06.11(金) 岩崎博行(KEK素核研) LHC近況報告 pdf LHCは2008年9月に最初のビーム周回に成功したが、 直後にヘリウムの大量放出事故が起ってしまった。修理と補強に約1年間を費やし、 2009年11月にようやく運転が再開された。再開後は順調にコミッショニングが進み、 11月23日には0.9TeVの衝突に成功し、 今年の3月30日には初めて7TeVの衝突に成功した。 最近のルミノシティはATLAS、CMSで約 2x10^{29} に達し、 順調に物理データが蓄積されている。 金茶会ではこれらLHCの最近の様子を報告する。
第39回 2010.04.23(金)

場所は_研究本館小林ホール_です。
飯島澄男(名城大学教授、AIST/ナノチューブ応用研究センター長、及びNEC特別主席研究 員) カーボンナノチューブの科学と応用  pdf ナノカーボン材料の研究が盛んである。フラーレン(1985年)に始まり、カーボンナノチューブ(1991年)、グラフェン (2007年)などが次々と発見されている。いずれも基本的構造はグラファイトであり、それぞれ0次元、準1次元、2次元の低次元構造物質であることが特 徴である。そのため、低次元物質に特徴的な新しい現象、すなわち量子サイズ効果が発現し、この分野の研究者に格好の研究課題を提供している。ナノカーボン 材料の興味は純粋科学のみに留まらず、工業的応用にもひろがり産業界からも注目され、ナノテクノロジーの根幹を成しているといっても良い。
演者はたまたま電子顕微鏡によるナノ材料構造の研究に関わっていたために、カーボンナノチューブ(CNT)発見の幸運に恵まれた。本講演ではCNT発見の 背景、CNTとは?最新電子顕微鏡によるCNT原子構造の評価、CNTの産業応用開発の現状など、CNTの基礎から応用まで演者の研究を中心に紹介する。
1)K. Suenaga, et al. Nature Nanotech. 2, 358 (2007).
2)Y. Sato, et al., Nano Lett, 7, 3704 (2007).
3)C. H. Jin, et al., Nature Nanotech. 3, 17 (2008).
4)C. H. Jin, et al., PRL, 101, 176102(1)-(4) (2008).
5)Z. Liu, et al., PRL, 102, 015501 (1)-(4) (2009).
6)C. H. Jin, et al., PRL, 102, 195505 (1)-(4) (2009).
              
第38回 2010.03.12(金)
(2009年度の最終回です)
鈴木英之(東京理科大学理工学部) 重力崩壊型超新星爆発とブラックホール形成時に放出されるニュートリノ pdf 超新星1987Aのように、 重い星のコアは重力崩壊をして超新星爆発を起こすと同時に大量のニュートリノを放出する。 このような重力崩壊型超新星爆発の数値シミュレーションは、 ここ20年の間に、ニュートリノ輸送をあまり考慮しない多次元計算、 詳細なニュートリノ輸送を伴う1次元計算、ニュートリノ輸送を改良しつつある多次元計算と進歩してきた。 軽いコアの弱い爆発を除くと、自転やSASI などの非球対称性が爆発に対して重要な役割を担っている可能性が 指摘されているが、 逆に爆発せず球対称ブラックホールが形成される場合のニュートリノ放出に関して、 住吉らを中心に研究を進めてきた。 本講演では、近年の超新星シミュレーションを概観するとともに、 核物質の状態方程式やニュートリノ振動との関連についても紹介する。 また新学術領域研究「素核宇宙融合による計算科学に基づいた重層的物質構造の解明」 における連携研究にもふれたい。
第37回 2010.02.19(金) 酒見泰寛(東北大学サイクロトロン・ラジオアイソトープセンター) 冷却不安定原子を用いた電子の電気双極子能率探索 pdf 基本対称性・相互作用を調べるため、永年、様々な方法で、 基本粒子の永久電気双極子能率(EDM)の探索が行われている。 標準模型を超える理論的枠組みでは、EDMは自然に出現し、 現在の実験技術で測定可能な範囲にさしかかっている。 特定の放射性元素では、電子EDMの増幅度が極めて高いことに着目し、 東北大・CYRICでは、増幅度が最大となるフランシウム原子のEDM探索を進めている。
これまで原子EDM探索は、原子線ビームを用いて行われており、 原子スピン偏極保持時間や外場の非一様性等、測定精度に大きく影響していた。 今回、この測定限界を乗り越えるために、レーザー冷却・トラップ技術を 組合わせて生成する冷却不安定原子を用いた高精度EDM探索技術の確立を 目指している。原子EDMの背景とともに、現状を紹介する。
第36回 2009.12.11(金) 笹尾登(岡山大学極限量子研究コア) 原子を利用したニュートリノ質量分光の展望 「130億年余の宇宙史の中で宇宙から反物質が消滅したが、その機構は如何なるものか?最新の観測で明らかになった暗黒エネル ギーや暗黒物質の正体は何か?」など宇宙には未だ残された謎がある。物質優勢の宇宙を説明する理論として、レプトジェニシスと呼ばれるシナリオが有力であ るが、この理論の重要な鍵は、レプトン(電子やニュートリノなど)についてもCP対称性の破れが存在すると同時に、ニュートリノがマヨナラ型の質量を持つ 必要がある。何れも現在未確認である。我々はこうした疑問に答えるべく、「原子を用いたニュートリノ質量分光」実験を開始した。原子過程を使う長所は、そ のエネルギー準位が対象とするニュートリノ質量に比較的近く精密測定を可能にする点である。一方、弱い相互作用であるが故に過程そのものが起きる頻度が非 常に小さいという弱点がある。我々はこの短所を克服するため、従来とは全く異なる原理(マクロコヒーランス増幅機構と呼んでいる)や手法を使う。本講演で は、こうした新しい分野の魅力を紹介したい。なお「原子を用いたニュートリノ質量分光」研究は岡山大学・理学部・付属量子宇宙センターグループとの共同研 究である。
第35回 2009.10.30(金) 田崎晴明(学習院大学理学部) 非平衡定常系の熱力学にむけて pdf 熱力学というのは物理学のなかでも特別な位置を占める体系である。 19世紀に完成された(平衡)熱力学は、ミクロの原子・分子の存在をいっさい仮定せず、 完全にマクロなスケールだけで完結する美しくかつ定量的に厳密な理論体系だった。 ミクロを参照しないのだから、熱力学は、基盤となる (とナイーブに思われる)ミクロ理論がニュートン力学か、 量子力学か、あるいはよりミクロな別の理論であるかといった詳細には まったく煩わされずに成立する。熱力学が前世紀初頭の量子力学革命を なんら変更を受けずに生き延びた(というよりも、革命を先導する役割を担った) ことはよく知られている。また、ボルツマン、ギブスらが平衡統計力学を構築する際にも、 熱力学の体系は本質的に重要なガイドとなった。
21世紀の今、非平衡系に適用しうる統計力学を構築することは、 全く手つかずといっていい未解決問題である。われわれは、 その出発点として、非平衡定常系に おける操作的な熱力学を 構築することを目指して研究を進めてきた。その結果、 (当然だが)非平衡の世界は平衡とは本質的に異なり、 熱力学の拡張も決して 一筋縄ではいかないことを痛感している。 ここでは、われわれの試みの一端と、非平衡の世界に踏み込むと (おそらく必然的に)顔を出してくる「ねじれ」について、 予備知識を仮定せずに解説したい。
第34回 2009.10.1(木) 早野龍五(東大物理) 反陽子・基礎物理定数・CPT対称性 pdf  CERNの反陽子減速器施設で我々が取り組んでいる研究のうち、 (1)反陽子ヘリウム原子と、(2)反水素原子について紹介する。
 (1) 反陽子ヘリウム原子は我々がKEK PSにおいて偶然発見し、 その後CERNでレーザー分光法を開拓してきた。種々の技術革新により 分光精度が向上し、最近では10桁の絶対精度を達成し、 その結果は科学技術委員会が4年ごとに更新している 基礎物理定数のCODATA 2006年版に反映されている。
 (2) 一方、反水素原子を大量に生成して精密分光を行い、 これを水素原子と比較することは、CPT対称性の高精度検証手段として 期待されている。数年前、我々は毎秒数百個の反水素原子の生成に 成功し、その分光に向けた努力を続けているが、まだ分光するには 至っていない。
 これらの理論的背景、実験技術、今後の展望について論じる。
第33回 2009.9.4(金) 新竹積
(理研、播磨研究所、放射光科学総合研究センター)
X線信号のヘテロダイン検出を提案。X線FELはタンパク質1分子の構造解析を可能とするだろうか。 pdf1

pdf2

pdf3
 X線自由電子レーザー(以下、X線FELと呼ぶ)が世界の3箇所で建設中である。 これは従来の放射光よりも10桁以上も高い輝度のコヒーレントなX線を発生できるために、 炭素、酸素、窒素そして水素などの軽元素からなる高分子、とくに生体高分子(タンパク質)の原子レベルの構造決定手法に 飛躍的な進歩をもたらす可能性がある。これまで放射光が大きく貢献してきたタンパク質のX線構造解析では、 幾多の困難を乗り越えてタンパク質を結晶化し、Bragg反射によって弱いX線散乱を増幅し精密なるX線観測を行ってきた。 ここにX線FELが登場し、サンプルを結晶化をせず、すなわちBragg反射を利用せずとも 軽元素からなる高分子の単分子イメージングが可能になろうとしているのである。
 しかし、XFELをもってしても、あまりにタンパク質1分子からの散乱X線信号は弱く、 CCD検出器のノイズレベルよりはるかに弱い(0.01 photon/pixel)。 そこで、金粒子をタンパクにつけて強く散乱させ、タンパク質からの弱い信号をヘテロダイン増幅するアイデアを提案した (Shintake, PRE-78, 041906 (2008))。 これによって最大1000倍もX線強度が高くなる。 これが実現すれば生物学に多大な貢献ができるものと期待されている。 たとえば現在ゲノム創薬において、最も重要な研究テーマであるGPCRを代表とする薬物受容体は、 いわゆる膜タンパク質であり結晶化が困難な場合が多く、 X線FELによる単分子イメージングが可能となれば、 ゲノム創薬に大きな技術的進歩をもたらすであろう。
第32回 2009.7.1(水) 竹内繁樹
(北大、阪大)
光子を用いた量子回路の実現と展望 pdf 量子力学の基本的な性質を直接情報処理に応用する、量子情報技術が注目されている。量子情報の担体の中でも光子は、長距離伝送 が可能でかつ高精度での状態検出が可能という特長をもつ。本講演では、この光子を用いた量子情報通信処理に関し、我々の、複数の量子ゲートを組み込んだ、 光量子回路の実現[1]とその量子メトロロジーへの応用[2]に関する研究について紹介する。
[1] Okamoto et. al., Science, vol 323, 483 (2009).
[2] Nagata et. al., Science, vol 316, 726 (2007).
第31回 2009.6.11(木) 細野秀雄
(東京工業大学フロンティア研究センター&応用セラミックス研究所)
新たに発見された二つの超伝導物質 ー 超伝導セメントと鉄系高温超伝導 ー pdf 私たちの研究グループはこれまで、高い伝導性をもつ透明なアモルファス酸化物半導体(TAOS)などの新物質を発見してきた。 これらは現在、有機ELなどに実用化されつつある。この研究の一環として、最近、2つの新しい超伝導物質、「超伝導セメント」および「鉄系高温超伝導物 質」を発見した。12CaO・7Al2O3(C12A7)という絶縁物質はセメントの構成成分として知られていたが、この物質に細工を施すことに成功し た。さらに金属状態を低温まで冷やすと、0.2-0.4 Kで超伝導状態になることを見いだした。すなわち「超伝導セメント」が実現したのである。また、透明P型半導体から派出した磁性半導体の探索過程で、昨年 来大きな話題となっている鉄(ニッケル)オキシニクタイドの高温超伝導も見出すことができた。本講演では、これら2つの超伝導物質の発見に至るまでの経緯 と最近の進展について紹介する。


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